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§コーティング肥料の環境負荷軽減効果について
新潟大学 農学部
教授 金野 隆光
§生命にとって塩とは何か
-生物と塩との関係史-7
京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一
§施設栽培下の果菜類連作における肥料の成分形態,随伴イオンが土壌,作物体へ及ぼす影響(1)
JA全農営農・技術センター
肥料研究部
部長 羽生 友治
新潟大学 農学部
教授 金野 隆光
現在,世界的な流れとして,農業生産が生産性と増産に主力が置かれていた農法から,環境保全という軸に重点を移した新たな農業のシステム,いわゆる「環境保全型農業」への道が探られるようになった。
わが国では,平成4年6月に発表された新政策(新しい食料・農業・農村政策の方向)の中で,環境保全型農業の確立を目指す政策を打ち出した。この環境保全型農業の基本的な概念を農作物の栽培技術の面からいえば,『有機物の土壌還元等による土づくりと合理的作付体系とを基礎として,化学肥料,農薬等の効率的利用によりこれら資材への依存を減らすこと等を通じて環境保全と生産性向上等との調和のもとに,幅広く実践が可能な農業』を目指すこととなった1)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
この政策に基づいて,日本農業研究所は,平成4年度から平成8年皮までの5カ年計画で,農林水産省からの補助事業として,低投入・高品質農業生産実験実証事業を実施した。この事業は「農業の生産性及び品質を維持しつつ従来の農法を転換し化学肥料や農薬の施用量を大幅に削減することによりこれら資材による環境への負荷の軽減と農業の持続的発展を可能とする新しい農法を確立する」ことを目的とした。この事業の成果が報告書として本年3月にまとめられた2,3)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
報告書には,コーティング肥料による施肥削減と環境負荷軽減効果に関する内容が含まれている。本稿では,これらを整理して紹介する。
本事業では,化学肥料の依存度を下げて,有機物施用による土づくりを基本とした施肥技術の検討が実施された。
窒素施肥技術のポイントは,過剰施肥を避けることによる環境負荷の低減,肥料の利用効率を高めることによる肥料削減,有機物による地力窒素の増強,土壌診断による窒素供給パターンの予測に基づいた適正施肥,作物の生育特性および吸収特性に合わせた適正な養分供給などである。また同時に生産性向上と組み合わせた技術が探られた。
本稿では,コーティング窒素肥料の特性を利用した各種の実証技術例について紹介する。
コーティング窒素肥料は溶出特性から二種類に大別され,一つは施肥直後から溶出するタイプと,もう一つは一定期間は溶出せず,その期間を過ぎると急速に溶出するシグモイドタイプといわれるものがある。
全農ではコーティング肥料の溶出推定プログラム〔JA-COAT〕を作成し,速効性肥料とコーティング肥料を配合施用した場合の溶出量の時間推移を作図できるようにした4)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
図1は作図例である。3種の肥料(速効性肥料-20%,LP40-50%,LPS100-65%)を配合施用した場合の窒素の微分溶出率が示されている。LP40では施肥直後から溶出するのに対して,LPS100では施肥後40日間は溶出せず,その後に溶出する特性が示されている。

この溶出推定法は,地温データとコーティング肥料の溶出特性値から計算するものである。
寒冷地と温暖地とでは地温に大きな差があるので,それぞれの地域で,各種の肥料について溶出推定をして,適切な肥料を選択する必要がある。地域に適した肥料を選択するうえで,この溶出推定プログラムは有効である。
不耕起移植栽培技術において,コーティング肥料(溶出コントロール肥料のシグモイド100日タイプ)を用い,接触施肥を本田期においても続ける施肥法(基肥育苗箱施用法)を行った場合,肥料の利用率は著しく向上し,投入成分量を削減(21%)できた。本技術は強稈で登熟に優れた稲型となるため,安定した収量を得ることができる。収量は不耕起慣行並かやや低い傾向であるが,生産費が少なく,純益性が高いことが明らかとなった。
緩効性肥料と側条施肥の組み合わせで,化成肥料を使用した慣行施肥に比べ,約35%の肥料窒素が削減でき,収量は4年間の平均で1%の増収となった。その要点は次の通りである。
側条施肥田植機によって肥料を水稲根の近傍に施用することにより,肥料の利用率が高まり,窒素肥料を削減することができ,かつ施肥の行程を省略できる。加えて緩効性肥料を利用することにより,追肥が省略できる。緩効性肥料は水稲の生育に合わせて肥料が溶出するので利用率が高い。これらにより窒素成分で30~40%程度削減して水稲の生産を行い肥料成分の田面水への流出を極力抑制し,環境への負荷を軽減できることを明らかにした。
茨城県県南では,コーティング肥料を側条施肥したときの田面水影響が調べられた2)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
転換田における田面水および土壌溶液中の無機態窒素濃度の推移を調査し,化成肥料の慣行施肥を対照ほ場とし,窒素施肥量を3割削減したコーティング肥料を側条施肥した実証ほ場とを対比して,水質影響が検討された。
その結果を表1に示した。田面水の無機態窒素濃度の推移をみると,対照ほ場では,基肥施用後の窒素濃度は高いレベルで推移し,1週間で消失した。一方,窒素施肥量を3割削減したコーティング肥料を側条施肥した実証ほ場では,移植後から漸増するが,濃度は対照ほ場より低く,約2週間で消失した。

作土5cmの土壌溶液中の無機態窒素濃度の推移をみると,硝酸態窒素は殆どみられず,アンモニア態窒素では,対照ほ場で高いレベルで推移するのに対し,実証ほ場では移植後7日に高くなるのみで,低レベルで推移した。
深さ25cmの土壌溶液中の無機態窒素をみると,作土と異なり,硝酸態窒素がみられた。これは土壌由来の窒素と考えられる。この場合でも,実証ほ場の窒素濃度は対照ほ場より少なかった。
以上のことから,田面水の無機態窒素濃度の推移は,肥料および施肥法の特性を反映している。すなわち,化成肥料を慣行施肥した対照ほ場では,施肥・代かき直後に田面水中窒素濃度が著しく高まるのに対して,窒素施肥量を3割削減したコーティング肥料を側条施肥した実証ほ場では,移植後1週間後に高まるが,その濃度は対照ほ場より低レベルである。土壌溶液中の窒素濃度についても同様の傾向がみられる。
要するに,コーティング肥料を側条施肥した場合は化成肥料の慣行施肥よりも,田面水影響および地下水影響が少ないと考えられる。
福岡県高田町においては,コーティング肥料を側条施肥し,追肥を省略した場合の田面水影響が調べられた。
表2は平成8年の水田の取水口および落水口の水質調査結果である3)。6月21日では,速効性肥料を全層施用した対照圃の水田団地において,電気伝導度(EC),全窒素(T-N)およびアンモニア態窒素濃度が高いレベルになっている。一方,実証圃の水田団地では低レベルを維持している。実証圃で側条施肥したあとの6月26日の実証圃では水質の大きな変化がみられない。すなわち,慣行施肥(速効性肥料の全層施肥)では田面水の水質影響が非常に大きいのに対して,コーティング肥料の側条施肥は影響が小さいと考えられる。

さらに,8月20日のデータをみると,8月13日および8月19日に追肥した対照圃では,EC,T-N,NH4-Nともに灌水より高く,河川への窒素負荷が認められる。これに対して,追肥を実施していない実証圃では,このような窒素負荷が認められない。
このようにコーティング肥料の側条施肥は追肥作業の省略のみならず,環境(河川)への窒素負荷を軽減している。
福岡県筑後市では,対照圃の窒素施用量108kg/10aに対し,実証圃では80kgとし,その30%をコーティング肥料(LPSS100)で3月27日に施用し,7~8月の土壌窒素濃度レベルを一定に維持することをはかった2)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.
表3に示したように,根量調査結果では,表層(0~20crn)および下層(20~40cm)ともに実証圃の根量が多かった。また,簡易ライシメータによる浸透水の測定結果では,平成7年7月以降の実証圃の硝酸態窒素濃度,硫酸イオン濃度が対照圃より低く推移した(図2)。また,浸透水中のアルミニウム,EC値が対照圃より低く推移した。


実証圃,対照圃および周辺憤行について,施用肥料中の硫黄の量を比較すると(表4),実証圃は対照圃の65%であり,周辺慣行の83~55%である。このように実証圃では硫黄の施用量が少ない施肥設計となっている。このことが実証圃の浸透水中の硫酸イオン濃度,ECおよびアルミニウムイオン濃度を低下させ,ひいては,根の生育を健全にしたものと考えられる。

鹿児島県茶業試験場では,実証圃の施用窒素の約1/2を肥効調節型(コーティング肥料)とし,茶の株元施用とうね間施用を組み合わせることで,年間の施肥回数を12回から7回に減らし,年間窒素施用量を103kg/10aから73kgに30%減らした。株元施肥はコーティング尿素100を10kg/10a施用した。株元施肥とうね間施肥を組み合わせたのは,慣行施肥ではうね間のみの施用で,うね間の肥料濃度が非常に高くなり,利用効率が低いと考えられるからである。株元の根を活用し,そこから吸収させ,肥料の利用効率向上をはかったものである。
その結果,実証圃の1~3番茶の収量,煎茶品質および新芽の窒素含有量は対照圃と殆ど変わらなかった。
うね間(施肥位置)の深さ60cmに設置した暗渠排水中の硝酸態窒素濃度および硫酸イオン濃度を調査した結果を表5に示した。夏季において暗渠排水中の硝酸態窒素濃度が30~40%低下した。また,実証圃の硫酸イオン濃度は対照圃よりも低く経過した。

要するに,コーティング肥料の株元施用とうね間施用の組み合わせにより,収量・品質に影響することなく,窒素施用量を30%削減でき,夏季における暗渠排水中の硝酸濃度を30~40%低下させ,硫酸イオン濃度も低下させることができた。
以上要するに,茶の多肥栽培において,コーティング肥料は土壌中窒素濃度を維持するのに役立つのみでなく,EC低下による根の健全化,さらにコーティング肥料が硫酸根を含まないので土壌中の硫酸イオン,アルミニウム溶出を抑え,土壌の健全化に寄与しているものと考えられる。
1)コーティング窒素肥料は溶出特性から2種類に大別され,全農の溶出推定プログラム〔JA-COAT〕を用いることによって,各種肥料の配合施用した場合の溶出推定が可能となった。
2)水稲におけるコーティング窒素肥料の環境保全効果
①コーティング窒素肥料の基肥育苗箱施用法,側条施肥などの技術が開発され,窒素の利用率が著しく向上した。
②コーティング窒素肥料の利用により,地域によっては,追肥作業を省略できるようになった。
③コーティング窒素肥料の利用により,田面水,地下水への窒素負荷を低減(環境負荷低減)できるようになった。
3)茶の多肥栽培におけるコーティング窒素肥料の環境保全効果
①コーティング窒素肥料の利用により,窒素供給を調節でき,20~30%の施用量削減ができるようになった。
②コーティング窒素肥料の施用は,硫酸根の施用量を減少させ,EC低下による根健全
化,硫酸イオン,アルミイオン溶出量の低下による土壌の健全化に寄与していると考えられる。
③これらの総合効果として,環境保全効果があると考えられる。
1)農林水産省農蚕園芸局農蚕課環境保全祁農業対策室:環境保全型農業の推進について,1993.9
2)低投入型農業その可能性の実証,-低投入・高品質農業生産実験実証事業の成果-,日本農業研究所,1997.3
3)平成8年度,低投入・高品質農業生産実験実証事業,関係資料集,日本農業研究盾,1997.3
4)被覆肥料溶出推定ソフト,JA-COAT操作法,JA全農,営農・技術センター肥料研究部,1997.4
京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一
外界の広い範囲の塩分変化に耐えて生活できる生物を一般に広塩性生物と呼ぶ。河口や干潟や潮溜りの生物,川と海を往復する回遊魚,植物ではマングローブやヨシなどがこれに属する。
マングローブ(中国名 紅樹林)は,熱帯,亜熱帯の海岸や河口の泥の浅瀬で,周期的に波に洗われているような所(潮間帯)に生えている低木の総称で,ヒルギ科,クマツヅラ科,ハマザクロ科,センダン科,キツネノマゴ科などいろいろな科の植物が含まれている。オヒルギ,メヒルギは代表的なマングローブで,タコの足のような支柱根をもち,それを満潮線より上の幹から出している。この根は海綿状の構造をしており,空気を取り込むことができる。
植物の種子は母体から脱落してから発芽するのが普通であるが,マングローブには結実後もしばらく母体にとどまり,そこで種子が発根してから落下して泥につきささり,発育するものがある。このような種子を哺乳動物の出産の仕方になぞらえて胎生種子と呼んでいる。こうすることによって種子は波に流されることなく,落ちたところで生長することができる。また発芽をはじめる前に,高濃度の塩分にさらされることも避けられるので,環境への巧妙な適応の仕方といえる。
マングローブの耐塩性の仕組みは二つある。一つは根でできるだけナトリウムを吸わないようにすることであり,いま一つは葉の表面の塩腺からの塩の分泌である。蒸散流によって運ばれてきた塩の大部分は塩腺によって分泌されているが,これにはリズムがみられ,光合成を行っている昼間は高く,夜間は低い。また薬剤で呼吸を阻害すると分泌が抑制されることから,塩類の排泄にエネルギーが使われていることが分かる。
面白いことに動物にもこれと似た器官をもつものがある。海棲の爬虫類や海鳥には,塩化ナトリウムを分泌する腺があり,食物とともに飲み込んだ海水中の塩化ナトリウムを海水より濃い溶液で排出する。ウミガメやイグアナでは眼穴に閉口する涙腺が変形して塩腺となり,海鳥では鼻腔に閉口する鼻腺がこれにあたる。分泌細胞はミトコンドリアに富み,哺乳類の尿細管細胞の構造に似ている。海という環境に適応するために,動物と植物という違いを越えて,同じ様な体の仕組みをつくりだす生物の能力には驚かされる。

イネ科の多年生植物であるヨシは,河原や湖岸などの淡水域の水辺で茂っているのがよく見かけられる。しかし河口や浜辺近くの海水の影響をうける汽水域でも,ヨシは貧弱ながらホソバノハマアカザやハママツナなどとまざって生えている。このようにヨシは塩生植物ではないが,耐塩性はかなり強い。ヨシは体の中に塩をためこまない。(前回の表8錦海塩田跡地に自生するヨシおよび塩生植物のナトリウム,カリウム含有率参照)。
そのため塩分濃度の高いところに生えていてもスリムである。塩をためこむ双子葉類の塩生植物は,その浸透圧によって体内に水をかかえこむので,葉などが厚っぽくなっている(多肉化という)。われわれの体も塩分の排泄に支障をきたすと,むくみを生じるが,これと同じ現象である。
ヨシは淡水環境の方を好むが,塩分の取り込みを抑え,光合成産物(ショ糖)を浸透圧をつくりだすのにまわす能力が発達しているため,かなりの塩分を含んだ汽水域まで入ってゆくことができる。ここが同じ湛水環境で生育するが耐塩性の弱いイネとちがっている。しかし塩分を取り込まないようにするためにエネルギーを使ったり,光合成産物の一部を浸透圧を作り出すのにまわすため,汽水環境に生えているヨシは淡水環境のものに比べて貧弱である。
ヨシの広塩性の仕組みは一般の非塩生植物のものと本質的には変わらず,ただ弾力性に富んでいるだけと思われる。ここで植物がもっている耐塩性(耐ナトリウム性)のいろいろ仕組みをまとめるとつぎのようになる。
1 エネルギーを使って,根へのナトリウムの流入を抑制する。
2 いったんとりこんだナトリウムを,エネルギーを使って根から排出する。
3 地上部に上がったナトリウムを師管経由で根へ再転流し,排出する。
4 体内に入ったナトリウムを根や茎の部分にためて,葉身への輸送量を抑える。
5 葉身へ送られてきたナトリウムを塩毛にたくわえ,塩毛の脱落新生の繰り返しで除去する。
6 光エネルギーを使ってナトリウムを塩腺から体外に分泌する。
7 葉肉細胞の大型の液胞中にナトリウムを隔離するとともに,細胞の吸水力を作り出すのに利用する(葉は多肉化する)。
8 細胞質には生理作用を営むのにじゃまにならないカリウム,ショ糖,アミノ酸の濃度を高めて浸透圧を作り出す。
1から4までと8はヨシについてみられるもので一般の植物にもあり,ただその能力の大小が耐塩性の差となって現れる。これに対して5~7はホソバノハマアカザやマングローブなどの塩生植物に発達した特殊な仕組みである。
植物の塩とのつきあい方は動物と違って受け身である。耐塩性の優れた植物といえども塩に耐えるためには多くの犠牲を払っている。しかしそれだけのメリットはある。塩分の存在によって自分の「なわばり」が守られているからである。塩分に耐える仕組みの十分に発達していない一般の植物は塩分濃度の高いところへは入ってゆけない。
植物は動物のように好適な環境を求めて移動することができず,発芽した後はその環境に適応してゆかねばならない。この宿命は植物にさまざまな環境に耐え,さらにそれを利用する能力を発達させた。今日,地球上のいたるところに,水の全く無い砂漠は別として,植物の姿をみることができるのはそのためである。そして植物のあるところ,動物もまた生存が可能である。このような積極性をもった植物にとっては,高塩類環境もまた一つの開拓すべきフロンティアである。われわれはこの植物のたくましさを学ぶ必要があろう。
JA全農営農・技術センター
肥料研究部
部長 羽生 友治
肥料は,多種多様にわたるため目的や施用法・作用面でさまざまな基準で分類される(第1図)。肥料の養分的な効果を直接表して分類しているものが多いが,間接的な肥料効果という点では窒素の形態や副塩・随伴イオンの有無もその1つとして考えられる。

最近,施設栽培を含む野菜栽培圃場では長期連作やそれに伴う生理障害や土壌病害が多発し,顕在化しているところも見られる。その対策として除塩,客土や土壌消毒が恒常的におこなわれるようになった。
副塩・随伴イオンとは,目的とする肥料成分に対し付随的に施用される塩または対イオンで,肥料として積極的には評価されない成分をいう。たとえば副塩の形態としては普通化成や過燐酸石灰中の石膏(硫酸カルシウム)が代表例であるし,随伴イオンとしては硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸カリウム(硫加)中の硫酸イオン(SO42⁻),塩化アンモニウム(塩安)や塩化カリウム(塩加)中の塩素イオン(Cl⁻)が相当する。
欧米では硫酸イオンは必須元素である硫黄(S)の供給源として評価されているが,火山性の土壌に覆われたわが国では肥料養分としては評価されていない。塩素も必須元素であることはよく知られているが38),その要求量はごく僅かであり,肥料として施用しなくとも自然界からの供給で十分であり,硫酸イオンと同様に肥料養分としては評価されない。このような成分は作物に対し積極的な有害性がないため,ある程度土壌中に施用されたとしても障害は現れないのが普通である。
しかし,施設栽培などで降雨等による溶脱が少なく,多量に,永年にわたって施用する場合にはこの限りではない。塩素施用による濃度障害や過剰吸収による生理障害はよく知られており,現在では塩素を含む肥料は施設栽培ではほとんど使用されない。これに対し硫酸イオンは土壌中に多量に含まれるカルシウムイオンと結合し,溶解度の小さい硫酸カルシウム(石膏)となること,二価イオンであることから吸収されにくいこと,さらには吸収された硫酸イオンが還元され,アミノ酸などの構成物として利用されることから,評価されることはあってもほとんど問題視されていないのが現状である。
速効性の窒素の形態には大きく分けてアンモニア態と硝酸態がある。尿素や有機質肥料も一度アンモニアに変化してから作物に吸収されるため,広い意味ではアンモニア態窒素に含めることができる。一般に,野菜類はアンモニア態窒素よりも硝酸態窒素を好む。アンモニア化成は微生物や加水分解,接触反応などで比較的進みやすいが,硝酸化成を進める硝酸化成菌類は土壌条件に影響されやすい。低温条件や土壌の低pHや高ECで活性が抑えられ,土壌消毒剤等の農薬や極端な高温条件によっては死滅する。また,その後の回復性も劣る。連用,連作によって土壌中の環境が悪化することによって硝酸化成が抑制され,アンモニア過多による問題が発生しやすくなることがある。
本稿では肥料塩の違いによる随伴イオンの有無および窒素形態の違いが果菜類を連作することによって土壌や植物体の化学性や生物性にどのような影響を及ぼすか,また,生育や収量性等にどのような問題が発生する可能性があるか検討したものである。多少論理的な飛躍もあり,我田引水の感も否めないが,あえて報告することによって皆様のご批判をいただき,これからの私共の研究課題としたい。
試験設計は第1表に記したとおりである。平成2年から3年にかけてメロン-トマト-メロンの計3作を連作した。処理区は,1作目では炭酸塩区をつくったが,アンモニアの揮散が激しいなど処理区として不適なため2作目からは窒素分を硝酸石灰,カリ分を硝酸カリウムで施用し炭酸塩・硝石区とした。同様に硫酸塩区,塩酸塩区を中心にpHの低下がみられたため,2作目から全処理区を半分に仕切り,苦土石灰(ドロマイト:炭酸カルシウム・マグネシウム複塩)を施用した苦土石灰区を新たに設けた。さらに,3作目のメロンでは2作目跡地土壌の窒素分(硝酸態窒素)の残存量が多いため基肥を無肥料とした。

調査内容は各処理区ごとの
①生育状況および収量性の推移,
②土壌(栽培中の跡地土壌,土壌溶液)の化学性の変化,
③栽培終了時の葉,葉柄,果実の水溶性無機イオンのバランス,
④跡地土壌の微生物相の変化
などである。
試験結果は以下のとおりであり,第2表,第2図~第15図に示した。
生育の状況では各作物とも2回づつ調査をおこなった。その結果は第2図に示したとおりであり,硫酸塩区を100とした時の指数で示した。2作目トマトでの差は小さいが,全体的にみると硝安区が最も生育がよく,ついで炭酸塩・硝石区が優れ,塩酸塩区は劣る傾向にあった。

1,3作目メロン収穫果の平均交配日の違いを第3図に示した。硫酸塩区に比べ塩酸塩区ではいずれの作も,炭酸塩・硝石区は炭酸塩を施用した1作目で交配日が遅くなっていた。

つぎに,2作目トマトについての尻腐れ果の発生率を第4図に示したがアンモニア態窒素を窒素源とした硫酸塩区,硝安区でやや高い傾向があった。

また,2作目トマトで一部に萎凋症状が発生した(第5図)。処理区ごとに発生本数を示したが,塩酸塩区で最も多かったが,その症状から濃度障害によるものと思われた。硫酸塩区,硝安区でわずかに発生しているが褐色根腐れ病(J3)と思われた。この傾向は苦土石灰施用の有無では大きな違いはなかった。

つぎに収量調査の結果を第6図に示したが,1作目では硝安区が,2,3作目では硝石を施用した炭酸塩・硝石区と硝安区で高収であった。塩酸塩区は,とくに2作目トマトで硫酸塩区に比べ50%前後と低収であった。苦土石灰施用の有無では収量性にとくに大きな変化はみられなかった。

跡地土壌の化学性で肥料塩間で大きな差異が見られたのはpH,ECと窒素であった(第7図)。pHは苦土石灰を施用しないと各区とも低下しているが,とくに硫酸塩,塩酸塩区で著しく,3作終了時には4台にまで達した。それに比べると炭酸塩・硝石区,硝安区の低下は緩やかであった。2作目以降の苦土石灰施用区はpHの低下が抑えられたが,順位は苦土石灰無施用区と同じ傾向であった。ECは苦土石灰施用の有無とは関係なく,肥料塩の種類によって傾向が異なった。

最も高くなったのは硫酸塩区で,つぎに塩酸塩区,随伴イオンを含まない炭酸塩・硝石区,硝安区は上昇程度が緩やかであった。無機態窒素の内アンモニア態窒素は,苦土石灰無施用区では1作目からアンモニアの形態で与えた硫酸塩,塩酸塩区で連作回数とともに増加した。しかし,苦土石灰を施用することによって減少した。一方,硝酸態窒素はアンモニア態窒素とは逆の傾向で,硝酸系を施用した炭酸塩・硝石区及び硝安区で高い傾向を示した。また,3作目の窒素施用はこの結果を踏まえて基肥を無施用とした。
つぎに2,3作目の栽培中の土壌溶液中の化学性を測定した。pHは2作目トマトで塩酸塩区,3作目メロンで塩酸塩区,硫酸塩区が低かった。しかし,各区とも苦土石灰の施用で上昇した(第8図1,2)。

また,第9図1,2に主要無機の陽イオンと陰イオンのバランスを示した。トマト,メロンの土壌溶液採取ステージが違うために,それぞれの総イオン量に差があるが,各処理区とも陽イオン,陰イオンの比がほぼ1:1に対応した。いずれの作も硫酸塩区では硫酸イオン,塩酸塩区では塩素イオン,炭酸塩・硝石区および硝石区では硝酸イオンが陰イオンの主体を占めた。硫酸塩区では比較的硝酸イオンが多く認められたが,塩酸塩区では少なかった。また,硫酸イオン,塩素イオンに対応する陽イオンとしてカルシウムやマグネシウムイオンが主体であった。


ECは上記した無機イオンの総量と高い相関を示した(第10図)。また,第11図に土壌溶液中のECと硝酸イオンとの相関を示した。塩酸塩区を除くとそれぞれの処理区の相関は高かった。随伴イオンを含まない炭酸塩・硝石区と硝安区はほぼ同じライン上にプロットされたが,硫酸塩区では硫酸イオンが多く存在するため,ECが高くとも硝酸イオンが低い傾向を示した。


各作物の栽培後に跡地土壌の微生物性を測定した(第12図)。測定項目は糸状菌,放線菌,細菌とした。糸状菌はローズベンガル寒天培地,放線菌,細菌はエッグアルブミン寒天培地を用いて希釈平板法でおこなった。1作目メロンよりも2作目トマトで全微生物数が増加したが,3作目メロン跡地は2作目と変わらなかった。

処理区間の違いでは,糸状菌は1作目では処理区間の差が小さいが,2作目以降では大きく,とくに2作目では硝安区,硫酸塩区で多くなった。また,苦土石灰を施用することで糸状菌数が相対的に減少する傾向があった。放線菌は2作目トマトで増加しており,苦土石灰の施用によってさらに増加する傾向が見られた。細菌は2作目トマトの炭酸塩・硝石区で増加したが,そのほかは2作目以降わずかに増加したのみであった。
第13図1,2に2作目トマト,1,3作目メロン跡地土壌の放線菌・糸状菌比(AF値)および細菌・糸状菌比(BF値)を示した。2作目トマト跡地土壌ではAF値,BF値とも炭酸塩・硝石区で高い値を示した。苦土石灰を施用すると炭酸塩・硝石区以外でも高まる傾向にあった。3作目メロン跡地土壌になるとAF値,BF値ともに硝安区でも高くなる傾向にあった。


第14図1,2,3,4に2作目トマトと3作目メロンの水溶性無機成分のイオンバランスを示した。いずれも栽培終了時のものである。苦土石灰無施用区でみると,2作目トマトは硫酸塩区,塩酸塩区は施用した随伴イオンが多く吸収され,かつ,そのままイオンの形態で存在していた。陰イオン全体に対するモル比の割合は,硫酸塩区葉部全体での硫酸イオンで10.4%,塩酸塩区葉部全体の塩素イオンで50.1%を占め,いずれも高かった。

それに対し炭酸塩・硝石区,硝安区の硝酸イオン含量は前記2処理区と大きな差がなく,随伴イオンが少ない分だけ無機陰イオン量も少なかった。陽イオンではカルシウム,カリウム,マグネシウムが主体で,アンモニウムイオンは塩酸塩区でわずかに多く存在した。また,陰イオンに対する陽イオンとの割合をみると,2作目トマト上・下葉平均では硫酸塩区で1.82,塩酸塩区で1.50,炭酸塩・硝石区で2.19,硝安区で2.07となっており,随伴イオンを含まない区の陰イオンの比率が小さかった。3作目メロンでの葉部では,硫酸塩区0.93,塩酸塩区0.79,炭酸塩・硝石区1.15,硝安区1.15,果実では同じ順に1.37,0.87,1.45,1.47となった。葉中の構成成分ではカルシウムの比率が著しく高かった。また,苦土石灰の施用によってもこれらの傾向は変わらなかった。